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東京地方裁判所 昭和48年(むのイ)1271号 決定 1973年11月24日

被疑者 武原光志

主文

本件準抗告の申立は、いずれも棄却する。

理由

一、本件準抗告の申立の趣旨および理由は、別紙「準抗告の申立書」記載のとおりである。

二、主たる申立に対する当裁判所の判断

(一)  本件勾留は、逮捕の必要性のない被疑者に対する違法逮捕に基づくものであり、違法である、との主張について

一件記録ならびに当裁判所の事実調の結果によれば、被疑者が本件の傷害等被疑事件により逮捕状を執行された当時、被疑者がすでに別件の監禁致死被告事件により勾留中であつたことは明らかであるが、右別件被告事件の勾留につき保釈の可能性がないとはいえない以上、被疑者を本件傷害被疑事件につき逮捕する必要性がないとはいえないから、右逮捕状の執行が所論の主張するような違法なものであつたとは認められない。論旨は理由がない。

(二)  捜査官が本件逮捕状の執行を故意におくらせ、被疑者につき逮捕、勾留の不当なむし返しを余儀なくさせたとの主張について

一件記録ならびに当裁判所の事実調の結果によると、被疑者は昭和四八年一一月一三日本件傷害等被疑事実につき、同年一〇月一八日付逮捕状により通常逮捕され、同年一一月一四日東京地方裁判所裁判官により勾留され、現在に至つているものであるが、被疑者は、これよりさき、同年一〇月二一日別件監禁致死被疑事件につき、同月一九日付逮捕状により通常逮捕され、同月二三日同地方裁判所裁判官により勾留され、同年一一月一一日勾留中起訴されたものであつて、本件傷害等被疑事実につき逮捕された当時、すでに右別件の監禁致死被告事件につき勾留中であつたことが明らかである。右の経過によると被疑者が別件監禁致死事件につき逮捕勾留された当時、捜査官において、すでに探知し逮捕状の発付を得ていた本件傷害等被疑事件につき被疑者を二重に逮捕勾留することは、物理的にまつたく不可能であつたわけではなく、そのような取扱いによれば、被疑者に対する勾留期間も短縮されるから、そのほうが被疑者にとつて利益であつたことは事実であると認められる。

しかしながら、一件記録ならびに当裁判所の事実調の結果によれば、本件傷害被疑事実と別件監禁致死被告事件とは、その日時、場所、動機、目的等を異にする別罪であつて、法律上はもとより、社会的な事実としても、密接な関連性を有するとは認められないところ、右両事件とも、事案複雑で関係者多数に及び、捜査機関の現在の人的、物的組織においては各事件の解明に相当の日時を要すると認められること、別件監禁致死事件の逮捕、勾留期間中には、被疑者に対し本件傷害被疑事件につき何らの取調べもなされておらず、前記の諸点によれば右取調べがなされなかつた点につき、捜査官側に格別責むべき落度があつたとは認められないこと、等の事実が明らかである。以上の諸事情を総合すると、本件傷害等被疑事実につき、捜査官が被疑者に対する逮捕状の執行をおくらせた点については合理的な理由があるというべきであり、これを目して逮捕、勾留の不当なむし返しであるということはできない(この場合、被疑者に対する勾留期間が、前記のような二重逮捕、勾留の取扱いを受けた場合に比し長くなることは事実であるが、この程度の不利益は、やむをえないものとして、被疑者において受忍すべきものである。)したがつて、これと前提を異に本件逮捕が逮捕権の濫用にあたるとして本件勾留の違法を主張する所論は採用できず、論旨は理由がない。

(三)  被疑者につき、刑訴法六〇条一項各号の事由が存在しないとの所論について

一件記録ならびに当裁判所の事実調の結果によれば、本件は全学連革マル派元早大二文副委員長である被疑者が、他の四名の革マル派学生と共謀のうえ、被害者両名に対して集団リンチを加え、うち一名に傷害を負わせたという事案であつて、右事案の解明には、被害者、目撃者、共犯者等多数の関係人の取調べが必要であると解せられるところ、共犯者中二名は未だ逃亡中であるうえ、すでに勾留中の被疑者外二名も、被疑事実について黙秘していること、目撃者、被害者等の取調べもその大半が未了であること、被害者らが、被疑者らからの報復をおそれて、相当期間告訴をちゆうちよしていたこと、等の事情が明らかであり、以上の諸点に加え、被疑者の前歴、組織内における地位等一件記録ならびに当裁判所の事実調の結果明らかな諸般の事情によれば、本件につき、被疑者が罪証を隠滅し、かつ逃亡すると疑うに足りる相当の理由があるといわざるをえず、所論指摘の諸点を考慮に容れても、右結論は何ら左右されない。論旨は理由がない。

三、二次的申立(接見等禁止の裁判に対する不服申立)についての当裁判所の判断

しかし前掲諸事情によると、被疑者に関する罪証隠滅のおそれは、かなり高度のものであるといわざるをえず、事件関係者の取調べがほとんど未了であつた原裁判当時において、被疑者を勾留するだけでは右罪証隠滅を防止することが不可能であるとして、被疑者に対する接見等の禁止をすることは、やむをえない措置であつたと認められ、弁護人主張一ないし三の諸点を考慮に容れても原裁判の判断が、裁量の範囲を逸脱した不当なものであるとは認められない。論旨は理由がない。

四、結論

よつて、本件準抗告は、いずれもその理由がないから、刑事訴訟法四三二条、四二六条一項後段によりこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(別紙準抗告申立書略)

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